DX推進担当を社内で育てるための条件と落とし穴|任命前に経営者が知っておくべき5つのポイント

「IT部門に任せたがシステムが入っただけで現場が変わらない」「外部コンサルが設計したDX計画を社内に引き継いだら誰も動かなくなった」——DX推進が社内に根付かない背景には、多くの場合「DX推進担当者の選び方・育て方の問題」があります。DX推進担当に本当に必要なのはIT知識よりも、業務を言語化する力と現場と経営の橋渡しをする力です。本記事では、向いている人の5条件・やってはいけない任命3パターン・育てる側の経営者が整えるべき環境の3点から整理します。
この記事のまとめ
DX推進担当者の育成に必要な「人の条件」は以下の5つです。
- 業務フローを言語化できる人(IT知識より優先)
- 現場の不満を経営に届けられる橋渡し役
- 小さく失敗して学べる人(完璧主義でない)
- 社内の信頼関係がある人 ⑤経営者との距離が近い人
やってはいけない任命パターン:IT担当への兼務押しつけ / 若手への丸投げ放置 / コンサル設計の社内引き継ぎ IPA「DX動向2025」によると、日本企業の85.1%でDX推進人材が不足しています。「人を選ぶ前に、育てる環境を整えること」が先決です。
DX推進担当者に「IT知識」より大切なこと
【このセクションの結論】
DX推進担当者の役割は「システムを作る」ことではなく「ビジネスとデジタル技術を橋渡しする」ことです。IT知識よりも業務の全体像を把握し言語化できる力が、中小企業では最も重要な素養です。
IPA「DX動向2025」によると、日本企業の85.1%でDXを推進する人材が「不足している」と回答しており、米国・ドイツに比べても著しく高い水準です(出典:IPA「DX動向2025」https://www.ipa.go.jp/digital/chousa/dx-trend/dx-trend-2025.html)。しかし、この「人材不足」の本質は「IT技術者の不足」ではありません。ビジネスとデジタルの両方を理解して橋渡しできる「翻訳者型の人材」が足りないことが最大の課題です。
DX推進担当者の役割とは
【DX推進担当者とは】
DX推進担当者とは、経営課題とデジタル技術を結びつけて社内のDXを主導する役割のことです。システム開発ではなく「現場の業務課題の言語化・優先順位づけ・社内合意形成・外部ベンダーとの調整」が主な業務になります。
IT担当とDX推進担当は何が違うか
| 比較項目 | IT担当(情報システム担当) | DX推進担当 |
|---|---|---|
| 主な役割 | 既存システムの運用・保守・ヘルプデスク | 業務課題の特定・デジタル解決策の推進・社内変革の主導 |
| 必要なスキル | IT技術・セキュリティ知識・インフラ管理 | 業務知識・コミュニケーション力・プロジェクト管理 |
| ゴール | システムを安定稼働させること | 業務フローや価値提供の仕組みを変えること |
| 評価基準 | 障害ゼロ・コスト削減・安定運用 | 業務効率の改善・新しい価値の創出・組織変革への貢献 |
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DX推進担当者に向いている人の「5つの条件」
【このセクションの結論】
DX推進担当者に向いている人の条件は「ITが得意な人」ではありません。「業務課題を言語化できる人」「現場と経営の間に立てる人」「小さな失敗から学べる人」という人物特性が中小企業では特に重要です。
①業務フローを言語化できる人(ITの素養より優先)
「今の業務がどう動いているか」「どこにムダがあるか」を文章や図で整理できる人です。ITの知識は後から習得できますが、自社の業務を構造化して説明する力は経験から生まれるものです。総務・営業・製造など業務の最前線で「なぜこうやっているのか」を問い続けてきた人がDX推進担当に向いています。
②現場の不満を翻訳して経営に届けられる人
「現場の声をそのまま上に届けるだけ」では機能しません。「現場がこう困っている→これを解決するとビジネスにこれだけの効果がある」という翻訳ができる人が必要です。現場語りと経営語りの両方が使える人は、DX推進における「共通言語をもたらす橋渡し役」として最大の力を発揮します。
③失敗を小さく試せる人(完璧主義でない人)
DXは1回の大規模投資で一気に実現するものではなく、小さく試して学んで拡大するプロセスです。「完璧な計画を作ってから動く」という姿勢の人は、DX推進担当には向きません。「まず試してみてダメなら撤退・改善する」というサイクルを回せるマインドセットが重要です。
④社内の信頼関係がある人(社歴・人脈がある人)
DX推進は社内の各部署の協力なしに進みません。「あの人が言うなら話を聞いてみよう」という信頼関係は、社歴・人間関係の積み重ねで生まれます。入社してすぐの人や、特定部署しか知らない人では、社内を横断する変革を主導するのは困難です。
⑤経営者との距離が近い人(意思決定に接触できる人)
DX推進の多くの場面で「予算・権限・優先順位」の意思決定が必要です。経営者との距離が遠い担当者は、承認を得るたびに時間がかかり、推進力が落ちます。経営者が「この人に任せている」と明示できる距離感が理想です。
やってはいけない「DX推進担当の任命3パターン」
【このセクションの結論】
DX推進担当の失敗の多くは「人選の問題」ではなく「任命の仕方の問題」です。IT担当への兼務押しつけ・若手への丸投げ・コンサル依存の引き継ぎは、いずれも社内DXを機能停止させる3大パターンです。
NGパターン①:IT担当に兼務で押しつける
「ITのことはよくわかっているから」という理由でIT担当にDX推進を兼務させるのは最も多い失敗です。IT担当者の仕事はシステムの安定稼働であり、変革を主導することではありません。現状維持の役割と変革推進の役割は本質的に矛盾しており、兼務では必ずどちらかが疎かになります。
NGパターン②:やる気のある若手に任せて放置する
「デジタルに詳しそうだから」「やる気があるから」という理由で若手に任せるのも機能しにくいパターンです。DX推進には予算・権限・社内調整が必要であり、若手が担当者になっても権限と予算が与えられなければ何もできません。「やる気はあるが何もできない孤独なDX担当」を生み出す構造です。
NGパターン③:コンサル会社が設計して社内に引き継ぐ
外部コンサルタントが立派なDX計画を作り、「あとは社内でやってください」と引き継ぐパターンです。コンサルが設計した計画は社内の現場感覚から乖離していることが多く、引き継いだ担当者が「何をすればいいかわからない」という状態になります。
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【この任命をすると1年以内に機能停止するDX担当の特徴】
- 権限がない・予算がない・意思決定できない状態で「担当者」だけ置かれている
- 経営者がDXを「IT担当者の仕事」と思っていて経営課題として捉えていない
- 担当者が「何から始めればいいかわからない」まま放置されている
- 成果を急いで大きなシステム導入に走り、現場が使いこなせずに頓挫する
「DX推進担当が孤立して失敗するプロジェクトに共通するもの」
DX推進担当者が機能しなかった企業に共通していたのは、「担当者が社内で孤立していた」という状況です。経営者からは「あとは任せた」、現場からは「また上が勝手に何か始めた」、ベンダーからは「発注者の代表として決定権を持っている人を出してほしい」という板挟みになり、最終的には「何もできない担当者」として消耗していきます。
DX推進担当者は孤独な戦いをする人ではありません。経営者が「この人を全面的に支援する」と宣言し、現場が「一緒に変えていこう」と動ける環境を整えることが先です。担当者を任命する前に、その環境が整っているかどうかを必ず確認してください。
育てる側(経営者)が整えるべき「5つの環境条件」
【このセクションの結論】
DX推進担当者の育成は「人を選ぶ」だけでは完結しません。経営者自身が旗振り役を担い、失敗を許容する文化・外部との連携体制・兼務の限界ラインを整えてから担当者を任命することが成功の前提条件です。
【DX推進に必要な「環境条件」とは】
DX推進に必要な環境条件とは、担当者が機能するために経営者側が整えるべき組織的な土台のことです。権限・予算・評価制度・経営者のコミットメント・外部連携の5点が揃って初めて、担当者は推進力を持てます。
条件①:経営者自身がDXの旗振り役を担う
経産省「中堅・中小企業等向けDX推進の手引き2025」でも強調されている通り、DXの成否は経営者のコミットメントで決まります(出典:経済産業省「中堅・中小企業等向けDX推進の手引き2025」https://www.meti.go.jp/policy/it_policy/investment/dx-chukenchushotebiki/dx-chukenchushotebiki_2025.pdf)。「DXは担当者の仕事」と思っている経営者のもとでは、DX推進担当者は必ず孤立します。
条件②:成果よりもプロセスを評価する仕組みを作る
DXの初期段階では「効果が数字に出ない」時期が必ずあります。「試みた・学んだ・改善した」というプロセスを評価しない限り、担当者は失敗を恐れて何もしなくなります。小さな挑戦と失敗を評価できる仕組みを人事制度に組み込むことが重要です。
条件③:失敗を許容する文化と発言しやすい場を用意する
「DXに取り組んだが期待した効果が出なかった」という失敗を批判しない文化が必要です。現場の声を担当者が拾いやすくするために、部門を超えた「DX検討の場」を定期的に設けることも有効です。
条件④:外部パートナー(ITCなど)と連携できる体制を整える
社内のDX推進担当者だけで全てを担うのは非現実的です。ITコーディネーターとは、経済産業省が推進する民間資格(ITコーディネーター協会が認定)の保有者で、特定のツールやベンダーに依存しない中立的な立場で、経営視点からIT活用を支援する専門家のことです。このような外部の中立的な専門家と連携することで、社内担当者の負担を分散させながら専門知識を補完できます。
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条件⑤:兼務の限界を把握し、専任化のタイミングを決めておく
小規模企業では最初から専任担当を置くことが難しい場合があります。しかし「業務の20〜30%をDX推進に充てられる状態」が最低限の条件で、これを下回る兼務では推進力が出ません。専任化の判断基準を事前に決めておくことで、段階的な体制強化が計画的に進みます。
社内DX推進担当の育成ロードマップ
【このセクションの結論】
DX推進担当の育成は「すぐに成果を出す」ことを目標にすると失敗します。「業務の見える化→小さな成功体験→社内横展開」の3フェーズで段階的に育てることが、中小企業では最も現実的なアプローチです。
フェーズ1:業務の「見える化」から始める(0〜3ヶ月)
最初の3ヶ月は「今の業務がどう動いているか」を紙や図に書き出すことに専念します。ツール導入は後回しにして、「どこにムダがあるか」「どこで情報が止まっているか」を現場の人と一緒に整理します。この作業を通じて担当者は社内の課題を体感し、現場との信頼関係を築きます。
フェーズ2:小さな成功体験を積む(3〜12ヶ月)
最初の課題解決は「一番小さくて、一番わかりやすい成果が出るもの」を選びます。紙の日報を電子化する・Excelの作業をフォームに変える・議事録をAIツールで自動化するなど、現場が「これは便利」と実感できる小さな変化から始めることが重要です。
フェーズ3:社内に横展開する(12ヶ月〜)
小さな成功体験を積んだ後、他の部門・他の業務への横展開を進めます。この段階では担当者が「社内のDX推進事例の語り手」になっており、他部門への説得力が格段に上がっています。
育成を加速させるチェックリスト
☑ 担当者は月の業務時間の20%以上をDX推進に充てられているか ☑ 経営者が月1回以上、DX推進の進捗を確認する場があるか ☑ 担当者が「やってみていいですか」と言えるような権限が与えられているか ☑ 最初の3ヶ月に「業務の棚卸し(見える化)」を実施しているか ☑ 「小さな成功事例」を社内で共有できる場(全体会議・ニュースレター等)があるか ☑ 担当者が相談できる外部の専門家・メンターとの関係があるか ☑ 担当者の評価に「プロセス・挑戦・学習」が含まれているか
1つでも欠けている場合は、担当者を任命する前に整備することをおすすめします。
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【受注側が見た、内製DX担当が機能した会社としていない会社の決定的な違い】
元・開発側のSEだったからこそ、正直にお伝えします。
受注側として何十社ものDXプロジェクトに関わってきた経験から言えば、内製DX担当が機能した会社と機能しなかった会社の違いは、「担当者のスキル」ではありませんでした。機能した会社では例外なく、経営層の方が「このプロジェクトの最終責任は私がとる」といった姿勢を出されていました。これがあるだけで、担当者は動けるようになります。
機能しなかった会社では、経営層との距離を感じ「あとは担当者と業者でよろしく」という態度でした。担当者は板挟みになり、ベンダーとの交渉でも「これは経営者に確認します」を繰り返し、プロジェクトが止まりがちです。DX推進担当を育てるとは、実は「経営者自身がDXを自分事にする覚悟を持つ」プロセスでもあります。
兼務DX担当の「限界ライン」と専任化の判断基準
【このセクションの結論】
兼務DX担当は「DXを始めるための踏み台」として有効ですが、業務時間の20%を下回ると推進力を失います。兼務でも機能する条件と、専任化が必要になるサインを把握しておくことが重要です。
兼務でも機能する条件・機能しなくなるサイン
兼務でも機能する条件: 経営者がDXの旗振り役として積極的に関与している / 既存業務が繁忙期・閑散期で波がある / 月の20〜30%(週1日相当)をDXに充てられる
機能しなくなるサイン: 「また来週に」「今は忙しくて」が続く / 現場から「担当者がいつも逃げている」という声が出る / ベンダーとの調整が滞りプロジェクトが遅延する
専任化のタイミングを判断する3つの基準
- DX推進プロジェクトが同時に3件以上動き始めたとき:兼務ではプロジェクト管理が破綻します
- ベンダーとの本格的な契約・交渉が始まるとき:発注者側の主担当として専任の体制が必要です
- 社内全部門への横展開フェーズに入るとき:社内調整のコミュニケーション量が激増します
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よくある質問(FAQ)
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DX推進担当者に必要な資格はありますか?
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必須資格はありませんが、ITパスポートやG検定が基礎知識習得に有効です。資格より業務経験が優先されます。
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DX推進担当を社内で育てるのにどのくらい時間がかかりますか?
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最初の成果が見えるまで6〜12ヶ月、社内の推進力として機能するまでに1〜3年が目安です。
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中小企業でもDX推進専任担当者を置く必要はありますか?
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最初から専任は不要です。月の20%以上をDXに充てられる兼務担当から始めることをおすすめします。
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DX推進担当が社内で孤立しないようにするにはどうすればいいですか?
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経営者が「この担当者を全面的に支援する」と社内宣言することが最も効果的な孤立防止策です。
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DX推進を外部に委託する場合、社内担当者は必要ですか?
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必要です。外部パートナーとの調整・社内合意形成・現場定着を担う窓口役が社内に不可欠です。
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DX推進担当者を採用するのと社内育成するのはどちらがいいですか?
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中小企業では社内育成が推奨されます。業務知識と社内信頼関係は外から来た人には即座に得られません。
参考出典:IPA(情報処理推進機構)「DX動向2025」https://www.ipa.go.jp/digital/chousa/dx-trend/dx-trend-2025.html / 経済産業省「中堅・中小企業等向けDX推進の手引き2025」https://www.meti.go.jp/policy/it_policy/investment/dx-chukenchushotebiki/dx-chukenchushotebiki_2025.pdf / ITコーディネーター協会(ITCA)公式サイト https://www.itc.or.jp/about/
投稿者プロフィール

- 代表
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プログラマーとしてキャリアをスタートし、製造業の社内SEとして「工場」の論理を、士業事務所の社内SEとして「先生」の論理を肌で学んできました。異なる文化を持つ組織の中でITを推進するには、技術力以上に「聴く力」と「翻訳力」が必要です。
現在はその経験を活かし、新潟の中小企業のDXを支援しています。
ITコーディネーター/上級ウェブ解析士/上級SNSマネージャー







